Round5 Natsume Takuya vs. Tada Tsutomu

By Syouyama"傍観者"Youhei

これまでのトーナメントシーンにおける戦績は?と聞くと、「何も無いから!!」と口を揃えて言う謙虚な二人のマッチアップをお届けしよう。
なお、これでも4−0ラインのフィーチャーマッチである。
ある種このゲームで勝ち抜くにはこれくらいの謙虚さが必要なのかもしれない。

きっと口ではそう言ってはいるが、二人とも勝利にかける情熱は失ってはいないはずである。それほどこのラインにおける全勝対決は重い。
ここで勝てば決勝トーナメントが大分現実味を帯びてくるために、ここは両者共に是が非でも勝っておきたいところである。さながら意地と意地のぶつかりあいといったところか。

夏目は池袋のコミュニティをまとめる存在であり、面倒見の良い彼がいなければ池袋勢の遠征事情は惨々たるものであるといっても過言ではないだろう。
先に行われたPT神戸でのレガシートーナメントで賞品のデュアルランドをゲットするなどコンスタントに結果を残してはいるが、今一歩勝ちきれないようである。
果たして今回はその雪辱を晴らすことができるのであろうか。

対する多田も池袋のコミュニティを中心に活動しており、戦績を聞いても夏目と同じようにはぐらかすばかり。
ここまで4−0していることから、実力は確かなものであるように感じられるが…。

ここはお手並み拝見といったところか。
どこか似ている二人であるが、その予感は後に現実のものと化すことになる。


Game 1
筆者の勝手な期待とは裏腹に、試合は実になごやかなムードでスタートする。

ダイスロールで15を出して浮かれる夏目だが、対する多田は19。
身内の間では人間力の強いキャラで知られている彼であるが、多田の方が一歩上だったようだ。

多田は先攻を選択し、
《蒸気孔/Steam Vents》
《島/Island》
《ウルザの塔/Urza's Tower》
《差し戻し/Remand》
《ルーンのほつれ/Rune Snag》
《吸収するウェルク/Draining Whelk》
《ミューズの囁き/Whispers of the Muse》 …という好ハンドをノータイムでキープする。

ふと目を向けると夏目はいつの間にやらダブルマリガンの憂き目に…。
ダイスロールの時点で運を吸い取られてしまったのであろうか。
今日の彼は実に彼らしくない。

先手、多田は《蒸気孔/Steam Vents》を置いてターンを返す。

夏目は同じく《島/Island》を置いてゴー。

返す多田は《ウルザの塔/Urza's Tower》を置いたのみに留まる。


おや?と、夏目が首を傾げる。

そう、このRoundは完全なイゼットトロンのミラーマッチ。
面白いことに二人は単に似ているだけには留まらなかった。

何しろ、使用するデッキまで同じアーキタイプだったのだから!
プレイングも勿論であるが、いわゆる人間力、「右腕」の強さがものをいうこの戦い。
ダイスの目が示すとおり、この二人ならアツい戦いを繰り広げてくれそうである。

二人は淡々と土地を置いてターンを返すが、多田は土地が4枚で止まってしまう。
ところが返す夏目も4枚でストップ。

URトロン、多田

同じくURトロン、夏目

どこまで似てるんだよ、と。
苦笑しながら多田がドローするとそこには《イゼットの印鑑/Izzet Signet》がこんにちわ。

隙を作ってしまうのは確かだが…マナが伸びるなら贅沢は言ってられない。
多田は《イゼットの印鑑/Izzet Signet》をプレイグラウンドに送り出す。

このマッチアップではまた、マナの差が物を言うことも二人は熟知しているのだろう。
このたった1枚の印鑑を巡って早くも火花の散らし合いを展開することになる。

まず夏目は数秒考えた後にこれを《差し戻し/Remand》。
だが多田も押すべきところは退くべきではない、とばかりにさらに《差し戻し/Remand》。

これで多田はタップアウトとなる。

夏目は天を仰いで考え、これに対して《マナ漏出/Mana Leak》を。
なんとしてでもマナで優位に立たせてはいけないとの考えか。
多田の追随を許さない姿勢に夏目の確固たる闘志を感じる。

返す夏目は土地が引けず、《熟慮/Think Twice》をメインでキャスト。
繰り返しになるがやはりマナが大事なのである。無事に土地を引き込み、静かにターンエンド。

多田は先ほど差し戻された《イゼットの印鑑/Izzet Signet》を出すが、さらに夏目の《差し戻し/Remand》が。
ところがそこには更に多田が《差し戻し/Remand》を。

環境を作っている1枚
We love Remand !!
最も、ミラーマッチなのだから当たり前ではあるが。

多田の《イゼットの印鑑/Izzet Signet》は念願叶って場に出るが、再びタップアウトの状態になってしまい、隙を作ることとなってしまう。

夏目は返し、おそらくはこれが真の狙いであろう《連絡/Tidings》をノータイムでキャスト!
これはミラーマッチでなくとも相当なアドバンテージではあるが、こういう時の《連絡/Tidings》はやけに強い。

ところが、皮肉なことに《連絡/Tidings》の恩恵を受けた夏目をよそに、次のドローで先にウルザトロンを揃えたのは多田だった。
ファンファーレを口ずさみつつ、ゴキゲンな様子でターンを返す多田。

しかし負けじと夏目も次のドローによってウルザトロンを完成させてみせる。
ここ一番で夏目の右腕が光り輝く。

考えてみれば夏目はダブルマリガンとは思えない粘りを見せている。
《連絡/Tidings》を通すことに成功し、ダブルマリガンの痛手からは脱出したと見て間違いないだろう。
多田に対して一歩も退く様子は無く、余裕でディスカードまで始める始末。

さて、これで一見二人は並んだかに思えるが。
だがよくよく見れば並んでなどいない。いつの間にか夏目は多田を上回っていた。

夏目の目が僅かに光を帯びる。

何故なら彼の場には「4枚目のウルザランド」ともいうべき《ウルザの工廠/Urza's Factory》が。

やはりこうなると夏目が優勢である。
多田は何もできずにただターンを返し、夏目はその折にトークンを1体ずつ確実に生産していく。

夏目は着々とトークン達でビートダウンを続け、3体の組立作業員に殴られて多田のライフは6にまで落ち込んでいた。
次のターンで多田が何もできなければ流石に勝負は決したか、という局面で夏目はターンを返した。

その折に多田は有り余るマナからバイバックで《ミューズの囁き/Whispers of the Muse》。
一瞬、目をぱちくりさせる夏目だが流石に大量のマナが背景にあっては迂闊に動くわけにもいかず、これをスルー。

多田は重ねて再びバイバックで《ミューズの囁き/Whispers of the Muse》をプレイ。
ここで夏目が動く。

隙あり!

そう言いたげに場に舞い降りるは《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》!
《差し戻し/Remand(RAV)》により抗う多田だが夏目はこの隙を逃すはずもなく《マナ漏出/Mana Leak》で応じる。

多田はここでタップアウトとなったために《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》による能力が解決され、多田のライフが6から1となり…。

そして、《電解/Electrolyze》を貴方に。

勝機を逃さず、来るべきラストターンを待たずして1本目を夏目が先取することとなった。


夏目 1-0 多田
凄まじき制圧力!


まずは二人のサイドボーディングを紹介したいと思う。

・多田
【In】
《破壊放題/Shattering Spree(GPT)》
《併合/Annex(9ED)》2
《呪文嵌め/Spell Snare(DIS)》
《盗用/Plagiarize(TOR)》
【Out】
《燎原の火/Wildfire(9ED)》2
《吸収するウェルク/Draining Whelk(TSP)》
《撤廃/Repeal(GPT)》
《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite(TSP)》
 
・夏目
【In】
《併合/Annex(9ED)》4
《道化の王笏/Jester's Scepter(CSP)》3
《吸収するウェルク/Draining Whelk(TSP)》
【Out】
《電解/Electrolyze(GPT)》4
《マナ漏出/Mana Leak(9ED)》2
《撤廃/Repeal(GPT)》2

どうやらサイド後は《併合/Annex》合戦が勝負を分かつようだ。
件の《併合/Annex》の枚数で上回ってる夏目が僅かに優勢か。
同系対策として《道化の王笏/Jester's Scepter》も実に面白い選択である。

全然関係ないのだが、多田のデッキはメインから《急かし/Quicken》が入っている興味深い構成であることをお伝えしておこう。
本人曰く、どうやらインスタントで《燎原の火/Wildfire》を打ちたかったようだ。
果たして2本目は多田が意地を見せ、必殺の《急かし/Quicken》が火を噴くのだろうか。

頂きます!
Game 2
多田の先攻でゲームは始まる。

4ターン目までは互いにノーアクション。
多田は4マナを揃えたところでしばし考える。

《併合/Annex》を打つ選択肢もあったのだが、夏目の土地が起きていたためにここは《イゼットの印鑑/Izzet Signet》で探りを入れる。
これを通した後、多田は焦らずターンを返す。

夏目も多田もしばらく土地を置きつつドローゴーを繰り返すが、そのうちに多田は土地が止まり、ディスカードの憂き目にあう。

前述の通り手札には《併合/Annex》が眠っているのであるが、ここはまだ耐え忍ぶ時との判断か。
素直にディスカードをして《併合/Annex》を温存する構えを見せた。

その間にも夏目は順調に土地を揃え、ナチュラルに《ウルザの工廠/Urza's Factory》と7マナを揃えてみせた。
夏目お得意の恐怖の組立作業員ビートが再び始まるのであろうか。
こうなってしまうと筆を執る筆者でさえ何デッキをフィーチャーしているのかわからなくなってしまいそうだ。

とはいえ、1本目も《ウルザの工廠/Urza's Factory》が決め手になっていることは事実。
ここまでの展開では完全に夏目が優勢である。

然る後、一度目に出したトークンは《撤廃/Repeal》されるものの、痛くも痒くも無い、といった表情の夏目。

対する多田、どうにかしたい気持ちは強くとも、デッキは応えず。
またしても土地を引けずに、思わず「なんだこれ」と顔をしかめる。
《急かし/Quicken》を空打ちしてドローをするが、それでも土地は引けず。

渋々ディスカードのお伺いを立てるが、多田のディスカード前に夏目は慌てず騒がず、トークンを生み出していく。
ところが、思いがけずここで多田のサイドカードが炸裂する

必殺の《火山の目覚め/Volcanic Awakening》!!


メインで《急かし/Quicken》を打っていた為にちゃっかりストーム1である。

これにはさすがに参った、とばかりに更に天を仰ぐ夏目。
心なしか先程より角度がきつくなっている気がする。

本来とは違う形であれど、確かに《急かし/Quicken》が活躍を見せ、多田はご満悦の様子。
もう一発《火山の目覚め/Volcanic Awakening》が炸裂しようものなら夏目の背骨は折れてしまうのではないかと、余計な心配をする筆者は無粋であろうか。

しかし返す夏目も意地を見せ、多田がタップアウトした隙に《併合/Annex》を通す。
《ウルザの工廠/Urza's Factory》が《火山の目覚め/Volcanic Awakening》によって壊されたことを考えると、これで両者は互角か。

しかし場には《ウルザの工廠/Urza's Factory》の忘れ形見がまだ1体残っているのである。
僅かではあるがリードしているのは夏目か。

順調に組立作業員がビートダウンしていくが…多田はこの1体のトークンを除去することすら叶わずにいる。

更に「よし!そろった!」
と、夏目が送り出すは《道化の王笏/Jester's Scepter》!

これは《差し戻し/Remand》されてしまうが、余裕の夏目。

大量の無色マナを背景に再び送り出す。

そして再び《差し戻し/Remand》が。

夏目は三度《道化の王笏/Jester's Scepter》をプレイする。
流石に三度目は場に出てしまったようだ。

ウルザトロンが完成してしまったうえに《道化の王笏/Jester's Scepter》が通ってしまってはきついか。
顔をしかめる多田。何か見逃してることはないか、と。場と墓地と手札を代わる代わるじっと見つめる。

多田の手札を覗いてみれば、《吸収するウェルク/Draining Whelk》や2枚の《呪文の噴出/Spell Burst》が恨めしそうに佇んでいる。
《ウルザの塔/Urza's Tower》さえ引けばこれらのカードは値千金の活躍を見せるだけに、まだ多田は希望を失ってはいない。

そして多田はそれを実行した。何も自分で引き込む必要は無い。
夏目のコントロール下にある、件の《ウルザの塔/Urza's Tower》めがけて多田は《併合/Annex》を放つが。
これには順当に《差し戻し/Remand》が。

ここで多田はどう出るか。
少考の後におとなしく差し戻されて、エンドを宣言する。

ゆったり構えるプレイに見えるが夏目の場には、この局面におけるクロックの象徴であるトークンは健在だ。
ここまできては2/2バニラといえども馬鹿にはできない。悠長に構えている暇は無いのだ。

夏目は《強迫的な研究/Compulsive Research》でさらに掘り進めるが、その後にエンド。

そして返すターン、多田はドローしたカードを静かにセットする。
《ウルザの塔/Urza's Tower》ではないが…。

「あ、揃ってますけどいいですか?」

その名は《ヴェズーヴァ/Vesuva》。
そうか、これでもいいんだ。
攻防一体

一瞬呆気に取られる夏目であったが、これを承諾。
こうして少し遅れて多田もトロンを完成させる。

マナさえあれば、と。
手札に控える《併合/Annex》をプレイするが、夏目もこれはさすがに《差し戻し/Remand》。

何かを警戒したのか多田がそのままターンを返すと、夏目は多田のエンドに《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》を!
悪い予感が的中した。この局面でこのカードを通してしまっては多田の勝利はかなり遠のいてしまう。

だが心配は無用。多田の手札には何が眠っていただろうか?
合言葉は「塔さえ引けば」

そこには渾身の《吸収するウェルク/Draining Whelk》が突き刺さる。
なんとうっかりこれが通ってしまって頭を抱える夏目。
9/9飛行はとにかくでかい。これをどうにかしないことには決勝トーナメントは露と消えてしまう。

夏目、自分のターンに入り、腕を組んで《吸収するウェルク/Draining Whelk》とにらめっこする。
もしアクションを起こすなら多田がフルタップの今しかないだろう。

この時点で多田のライフは12点。
まず夏目は少考の後に2枚目となる《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》を。

本体に5点のダメージが通り、多田のライフは7に。
さらに3枚目の《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》を。

何枚引けば気が済むんだ、と。
筆者ですらそう思ったのだから多田が思わないわけはないだろう。

本体にさらに5点のダメージが通り、多田のライフは2。

1本目がそうであったようにここで「貴方に《電解/Electrolyze》を」といけたら格好良かったのだが…。

残らずサイドアウトしてしまったものを引けるはずもなく、夏目は次ターンに望みを託すことに。
夏目の場には《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》が2体とトークンが1体、多田の場には9/9の《吸収するウェルク/Draining Whelk》のみ。
従って、多田が何も引かなければ次のフルアタックで夏目の勝ちなのだが…。

多田はドローをしてうつむきながらただターンを返すのみ。
それを見て、何も解決策を引いてないと踏んだ夏目はフルアタックを敢行し…。

かくして2体のドラゴンと1体の組立作業員が速やかに多田を介錯したのだった。
見事なまでに夏目の「腕っ節」が冴え渡る一戦であったといえよう。

白熱する同系対決!

余談ではあるが、試合終了後に夏目が見せてくれた最後の1枚の手札は…。
そう、まさかの4枚目の《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》だ。
結局のところ夏目は戦闘フェイズを待たずして、ラストドローの時点で揺るぎない勝利を手にしていたのだった。

まさに《豪腕/Brawn(JUD)》。


夏目 2-0 多田

Result: 夏目拓哉 WIN!